効率化とは無縁──74歳、まだ理想の農業の途中(北海道・土井弘一さん)
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北海道の大地は、ときどき“時間の流れそのもの”を見せてくれます。
2025年10月中旬、南幌町の土井農場を再び訪ねた日のことを、そんなふうに感じました。
目の前に広がるのは、一見すると枯れ果てた草が広がる寒々しい畑。
でもそれは、まさに収穫の瞬間を待つ大豆たち。秋風に揺れるその姿は、ただの“枯死”ではなく、じっくりと旨みを溜め込んだ成熟の気配そのものでした。

■ 今ではほとんど見られない「手刈り × 天日乾燥」
土井弘一さん(74歳)がつくる大豆は、いまどき本当に珍しい。
コンバインで一気に刈り取れば効率は格段に上がる。
けれど、大豆は土にまみれ、摩擦で細かな傷もつく。
「手で刈って、畑で自然乾燥させるのがいちばんいいんだよ」
と、土井さん。
青空の下でゆっくり天日干しされた大豆は、余計な熱を加えられずに乾き、豆そのものの甘みがぐっと引き立つ。その味わいを知っているからこそ、誰もやらなくなった作業を40年以上も続けてきた。
畑に積まれた大豆の山はブルーシートに包まれ、静かに冬を待っている。その光景は、農作業というより“熟成”に近い。


■ 1.2ヘクタールをたった一人で
広大な1.2ヘクタールの畑で育った大豆を、かつて土井さんは60歳まで一人で刈り、運び、乾かしてきた。
「気が遠くなるような作業だよ」と笑うが、その裏にどれだけの重労働が隠れているか想像するだけで目が回りそうだ。
ここ数年は、志ある研修生たちが力を貸してくれるようになった。
だが、長い長い年月、誰ひとり頼れない中で続けてきた土井さんの農業は、“根性”などという薄っぺらい言葉では語りきれない。

■ 穏やかな笑顔の奥にある、揺るぎない信念
土井弘一さんは、今年で74歳。
有機農業一筋、40年以上のベテランだ。
おだやかでにこやかな人柄だが、その心の奥には強い信念が流れている。
土井さんの農業はすべて無農薬である。
「土に棲む何千男億もの微生物たちを農薬で殺すわけにはいかない」と、土に敬意を払い、田畑には一切の化学物質をいれない。
もちろん、肥料もしかり。化学肥料は使用しない。海藻、貝殻、稲わらなどを使って大量のたい肥を手作りしているのだ。
夏場の一番の重労働は、この大豆畑の除草である。除草剤をまけばすぐに雑草は枯れるのにそれをやらずに手で草を刈っていく。
近年の猛暑の中で「来る日も来る日も草を刈る」とは、一般の農家にしてみれば「狂気の沙汰」ではないだろうか?
年齢とともに体力的にも精神的にも厳しさを感じることが増えてきたと、ご本人は静かに話す。
けれど畑に立つ土井さんの姿は、まだまだ理想の農業を追いかける青年のようでもある。
“甘くて、旨みの深い最高の大豆を作りたい”
その純粋な思いが、ずっと土井さんを前に進ませている。
■ これからも長く、この味を作り続けてほしい
北海道の秋の空の下で、両手に転がる丸くてきれいな大豆を見つめながら思った。
こんな大豆、ほかにはない。
土井さんの大豆は、味が違う。
それは、効率を求めない。時間を惜しまない。
自然と向き合い、作物に寄り添う。
そんな“人の手の温度”がそのまま残っているからだと思う。
どうか、これからも長く長く
土井さんの理想の農業が実現するまで、お元気に農業を続けていただきたい。
そして私もまた、来年も再来年も、この畑を訪れて、変わらぬ姿勢で畑に立つ土井さんに会いたいと思います。
