言葉を失った。小田原の柑橘畑で見た過酷な現実と、生まれた小さな希望
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2026年4月2日。
小田原の柑橘農家、山下農園さんと石綿農園さんを訪ねました。
2月の雪害で被害が大きいとは聞いていました。
今年2月8日に降った雪で、小田原では積雪約25cmにもなったのです。気温もマイナス7.9度を記録したそうです。その影響でレモンの木がダメになったと。
でも、正直に言うと、どこかで「そこまでではないだろう」と思っていました。
現地に立つまでは。
でも、畑に入った瞬間、言葉が出ませんでした。
枯れてしまったレモンの木。地面に無残に落ちたニューサマーオレンジ。
拾われることもなく、そのまま朽ちていく果実。
無農薬で柑橘を栽培して40年、50年になる石綿さん、山下さんも「こんなことは初めて」と。
「お天道様には勝てないよ」と苦笑いをする石綿さん、山下さんでしたが、大事に手入れをしてきたレモンの木がこんなになってしまうとは、どんなに悲しいことでしょうか。

(山下さんのレモンの木)


(左:落ちてしまったニューサマーオレンジ 右:石綿さんのマイヤーレモン)
山下さんの柑橘の倉庫に、一見普通に見える湘南ゴールドの箱が積み重なっていました。
でも手に持ってみると、軽くて驚きました。切ってみると中は果肉の水分は抜け、スカスカになっていました。

これは商品になりません。「これは売れないから、捨てるしかないよ」とのこと。
でも、それでも毎日畑には来る。
また来年のために、手入れを続ける。
枯れてしまったレモンの木に少し新芽が芽吹いていたのがせめてもの救い。
この新芽がうまく生き延びてくれるように、大事に剪定してみるとおっしゃっていました。

またレモンが実をつけてくれるのか、わからない。
少なくとも今年はレモンは採れないだろう。
自然の前では、人は無力です。
そして、農業はその自然と真正面から向き合う仕事です。
でも、こういう被害に対して、ほとんど補償はありません。
つまり——
収入ゼロに近い年が、突然やってくる。
この現実を、多くの消費者の方はご存じないかもしれません。
「ちょっと高いな」
「見た目が悪いな」
その裏に、何が起きているのか。
ただ、今回ひとつ救いがありました。
スカスカになってしまった湘南ゴールド。
これを試しにジャムやコンフィチュールにしてみたんです。
すると、驚くほど美味しかった。

香りはそのまま。むしろ凝縮されている。
「これ、美味しい!」
そう思いました。生で食べるといつもの湘南ゴールドの美味しさはほとんどないに等しいけれど、煮たりジャムにすればこんなに美味しいのか。それなら、このスカスカの果実を喜んでくれる方がいるかもしれない。
そう思いました。この話をすると、食品ロス削減という想いに共感していただき、多くの方が手を差し伸べてくれました。
- 太陽食品さん
- ママレインボーさん
- 暮らしの発酵STORE KAMAKURAさん
- イタリアンレストランKENZOさん
ジャムやコンフィチュールとして加工する形で、一部を引き取っていただけることになりました。
結果として、100kg以上の湘南ゴールドが廃棄されずに済みました。
もちろん、高値では売れません。利益はほとんどありません。
それでも、
「ゼロが、少しでも1になる」
これは農家にとって、とても大きなことです。
何よりも、心を込めて作った農作物を少しでも食べていただけるということに大きな意味があると思います。
今回の出来事に通して、
- 農家の現実
- 食品ロスの問題
- それでも価値を生み出せる可能性
これを伝えていきたいと思いました。
「見た目が悪い=価値がない」
本当にそうでしょうか?
この湘南ゴールドは、形を変えて、また誰かの食卓に届きます。
そしてその一口が、農家を少しだけ支えることにつながります。
これはほんの小さな一歩です。
でも、こうした一歩の積み重ねが、未来を少しずつ変えていくのだと思います。
近年、日本全国で多くの農家さんが、気候変動や天災、獣害などの影響を受けています。
その上で、私たちの食卓に届く食べ物があるということ。
その当たり前の背景に、どれだけの苦労があるのか。
少しでも想像するきっかけになれば嬉しく思います。